第7回「自由」

第7回「自由」
みなさまごきげんいかがですか?
ピラティス指導者のGingerです。

この原稿を書いている昨夜は中秋の名月でした。
月齢はまだ満月には満たないのですが、やわらかでいて神々しい月の光に心が安らかになり、いつもより深く眠れることができました。
健やかな心と身体のために、睡眠の質を高めることは大切なことですね。

この秋からヨガビオラトリコロール本町スタジオにて全四回のワークショップシリーズ『たかめていく氣と血のめぐり~ピラティスとアーユルヴェーダができること~』が始まり、先日その第一回講座 秋編 『血のめぐりと質を高めるアーユルヴェーダとピラティス』が終了いたしました。
私の専門分野はアートとピラティスとアーユルヴェーダなのですが、普段のレッスンや私個人のSNS(Instagramとブログ)でも、できるだけピラティスばかりに偏らずに発信をするように心掛けています。
そのお陰か否か、第一回講座を受講して下さった方々はスタジオのピラティス/ヨガ指導者養成コース卒業生と養成コースに関わっていない会員様がちょうど半分ずつくらいの割合でした。また指導者養成コース卒業生もヨガとピラティスの卒業生がそれぞれ半分ずつくらいの割合でした。専門分野やスタジオに通う目的を問わずたくさんの方々がこの講座にご興味を持って集ってくださったことがとても嬉しかったです。
様々な背景を持つ人たちが同じ場所に集まり、共に一つのことに心を向けて学ぶとき、新しい発見や再確認が生まれます。専門分野の人たちや似た考え方の人たちばかりが偏るとどうしても角度を変えて物を見ることが難しくなりがちです。
例えばその会社や部署に所属していない人をプロジェクトのオブザーバーに入れたり、コンサルタントを雇ったりと、別の次元からの視点を導入するとこで今自分たちのしていることが立体的になり、目的もクリアになりますから、達成に向けての手法における要・不要が明確になり、無駄が削ぎ落とされ、迷いがなくなっていきます。
つまり常に現場を把握するということを行えば行うほど、突き詰めれば普段から自分自身とその役割を知ることを心がけておけばおくほど、やりたいことよりもやるべきことが見えてきます。
何事も明確な目的意識を持って取り組むとき、その体験から得る学びには厚みが出るでしょう。
では知りたい、学びたい、という思いはどこから生まれるのでしょう?
今回はそんなことを土台にして、また色々と書き進めてまいります。
どうぞ、珈琲と甘いものでも用意して、お気軽にお付き合いいただければ幸いです。

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私のワークショップシリーズの第一回講座は基礎編でもありましたから、アーユルヴェーダの土台部分についての講義をさせていただきました。
アーユルヴェーダはヨガをする人たちだけのもの、ではありません。また、ピラティスをやっているからアーユルヴェーダは関係が無い、使えないメソッドだということは全く無く、むしろ根底は同じです。

誰もが痛みを伴わずに動く身体や、落ち着いた心を持っていたい、つまり健康的で若々しくありたいと願います。
アーユルヴェーダでは、心と身体の両方を健康で若々しく保つ方法(ラサーヤナ)が色々と存在しますしそれらを推奨していますが、決して健康そのものが人生の目的であるとはしていません。ただし、幸せな人生、有益な人生を送るためには、心身の健康が土台となります。そしてそれは誰でも小さなことから毎日コツコツと続けていくことから築き始められます。
image1 このコラムの第一回「選択」の中で、アーユルヴェーダにおける3つの病気の種類と、3つの病の原因について書きました。では、アーユルヴェーダにおける健康の定義はと言うと、やはり身体と心と意識(Body・Mind・Spirit)のことに言及しています。
約2700年前に編纂されたスシュルタ・サンヒター(アーユルヴェーダの古典医学書の一つで外科的治療法をまとめたもの)における健康の定義は以下の通りです。
① トリドーシャのバランスが取れている
② アグニが順調である
③ ダートゥの生成と機能が正常である
④ マラの生成と機能が正常である
⑤ 魂、インドリヤ、心が至福に満ちている
– 『スシュルタ・サンヒター総論編 15:48』

補足説明を入れると
① 自分の本来持つ体質のバランスが取れている状態
② 身体の中に存在する13種類の消化力のバランスが取れている状態
③ 身体構成要素(体液・血液・筋肉・脂肪・骨・骨髄・生殖組織)がきちんと作られ、機能している状態
④ それぞれの身体構成要素から老廃物が作られ、排泄されている状態
⑤ 魂(始まりも終わりも無い存在。肉体が無くなっても不滅のもの)、五感(身体と精神)、心が至福に満ちている状態

見慣れないサンスクリット語が少々難しいかもしれませんが、つまりアーユルヴェーダにおける健康とは身体と心と意識(Body・Mind・Spirit) が美しい和音を奏でることであり、QOL(Quality of Life = 人生の質)を重要視しています。
Mindfulness(マインドフルネス)という言葉を現代社会ではよく耳にします。これは何も難しい精神修行のみで得られるもの、ということではありません。世界経済を動かすビジネスリーダーたちは、日常生活の中に mindfulness を取り入れています。その手法の中には瞑想や呼吸、ヨガやピラティスがあるのです。
ピラティス・メソッドを発案したジョセフ・ピラティス氏も身体と心と意識(Body・Mind・Spirit)、まさに mindfulness について言及していました。

“The acquirement and enjoyment of physical well-being, mental calm, and spiritual peace are priceless to their possessors if there be any such so fortunate living among us today.  However, it is the ideal to strive for, and in our opinion, it is only through Contrology that this unique trinity of a balanced body, mind, and spirit can ever be attained.”
– Joseph Pilates (1945)
「今日の我々にとって、肉体的な健康、精神的な落ち着き、魂の平穏さを獲得し、それらを味わえる喜びを得られるのであれば、それはお金で購えるものではないとても大切なことです。しかしながら、一生懸命にそれを得ようと努力することは理想的です。そして私たちの考えにおいてはコントロロジー(ピラティス・メソッドのこと)によってのみバランスのとれた身体と心と意識、この唯一無二の三位一体は得られるのです。」

ピラティス氏は、自らが考案したメソッドを Art of Contorology、コントロロジーのすべ(芸術)と呼んでいました。一般的にピラティスという名前で普及したのは彼のスタジオに通いつめていた顧客たちが彼の名前でその身体技法を称賛したからです。ピラティス氏の考案したメソッドが、いかにオリジナルであったかがよくわかりますよね。
ピラティスは、どうしても肉体的にハードなエクササイズという印象が強くなりがちですが、ピラティス氏はその教えの中でピラティスムーヴメントを行う上で最も大事なものを呼吸とし、続いて集中、コントロール、センタリング(中心軸をとること)、全身での動作、正確さ、バランスのとれた筋肉の発達、リズムの8つの法則を挙げています。
呼吸を重要とする意図の一つには心(mind)を身体の機能に繋げる、という項目を記しています。これは8つ目の法則、リズムで言及している「動物の持つ自然なリズム = リラックス」を促すことの相互関係とも言えるでしょう。
リラックスをしている時の呼吸は穏やかです。その際には、上手に呼吸法をしようという意気込みや、何秒間息を吸って吐けるかという意図的な筋肉の緊張も脳のストレスもありません。ただ、やさしくおだやかに在る。そんな呼吸です。
image6 ピラティス氏はまた、無力感を与えるような筋肉や精神の使い癖や、思い込みからの連鎖反応を手放すことで自由を得ることがコントロール、つまり彼の提唱するコントロロジーだと言います。(Joseph Pilates identified his work as Contrology: a ‘control’ that results in freedom, letting go of disempowering muscular and mental habits, patterns, and/or corresponding belief systems.)
コントロロジー(ピラティス)のレッスンを受けることによって心や身体がすっきりして笑顔になるのも、当然のこととピラティス氏は仰っていたようです。
“By reawakening thousands and thousands of otherwise ordinarily dormant muscle cells, Contrology correspondingly reawakens thousands and thousands of dormant brain cells, thus activating new areas and stimulating further functioning of the mind.  No wonder then that so many persons express such great surprise, following their initial experience with Contrology exercises, caused by their realization of the resulting sensation of ‘uplift’.  For the first time in many years their minds have been truly awakened.” – Joseph Pilates
「自分が使っていない何千もの普段は休止状態にある筋肉の細胞を目覚めさせることで、コントロロジーがその反応として休止状態の脳細胞を目覚めさせ、まだ使っていない脳の新たな部分に刺激を与え、心を活性化していく。多くの人はコントロロジーによってこうした高揚感の快感を得るという初めての体験に随分と驚くが、それは当然の結果なのだ。なぜならその人たちは生まれて初めて、心が真実に目覚めたのだから。」

自分の思い込みや執着を手放して真の自由を得ること… なんだかヨガをされる方にも馴染みのある考え方だとは思いませんか?
ピラティス氏の考えは、私が好きな五百羅漢寺で出会った自在王尊者の言葉、『己を制御できる人こそ自由である』を思い起こさせました。
ドイツ人のピラティス氏が東洋の修行僧と同じ精神を共有しているという美しい偶然。いえ、もしかしたら必然なのでしょう。
古今東西、どんな哲学や宗教も、結局は同じ根っこを共有しているのです。
自分を知ることは自由への第一歩です。
何かを知りたい、学びたいという気持ちは、もしかしたらその主題そのものではなく、その何かを学ぶことを通じて自分自身を知りたいということのように私は思います。
あの人はどうしてああいう風なんだろう?とか、どうして私ばかりこんな目にあうのだろう?などと言う考え方は、その対象(相手や物、出来事)の立場を尊重していない自分都合の見方です。この世界には様々なものや人がそれぞれの背景物語を持って存在しています。
自分以外の何かを変えるなんてことはできません。
思い通りに行かないときは、自分の心が自分だけに向いている時でしょう。自らを世界に調和させるには、ありのままを受け入れる寛容さや落ち着きが必要です。寛容とは、魂の容れ物である身体や心、五感といった道具が寛いだ状態にあることかも知れません。
自分を知るために、どんな手法が自分に合っているのかを探すのも、長い道のりの一歩目。それはピラティスかも知れませんし、ヨガかも知れません。または、日常生活に規律を持たせることや、寝食をおろそかにしないこと、出会う人たちに微笑みややわらかい言葉で接することかもしれません。
まずは自分にできそうなことから始めてみましょう。

では、現代医学では健康はどう定義するのでしょうか?WHO(World Health Organizasion)でもこんなことを言っています。 "Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity."
「健康とは身体的、精神的、そして社会的に良い状態であることを言う、つまりただ単に病気では無いとか虚弱では無いということを指すのでは無い。」
つまり、身体だけが頑健であれば良いというのでは無く、自分の心や精神が穏やかな知性や幸せに落ち着いていることが家庭や職場、コミュニティにおいても物質的、時間的、精神的に豊かさやゆとりを感じさせ、自らをいわゆるストレスとは無縁の状態に保つことができるということでしょう。やはりここでも身体と心と意識(Body・Mind・Spirit)のバランス、mindfulness が登場していますね。
私たち人間は、太古の昔から現在に至るまで変わらずに同じことで悩み、解決法を探し続けているようです。 自分を知る。終わりのない修行ですね。
image2 講座の中で氣を身体中に巡らせる呼吸法を行いました。
これまでは千里中央スタジオにて『呼吸を深めるピラティス』というタイトルのシリーズにて特別レッスンとして幾度かお伝えして参りました。ありがたいことに毎回『気持ち良かった』というお声をいただきますので、先月から月一回の日曜日に特別レッスンとして継続させていただくことになりました。
前述いたしましたが、ピラティスもヨガと同じで呼吸が何よりも一番大切です。
それは日常生活においての呼吸をより楽に、深く、細胞を活き活きさせるために行う修練で、その呼吸を乱さずにピラティスムーヴメントを行うのは、呼吸の修練の確認作業のようなものですね。
アーサナやピラティスムーヴメントは、始めたばかりのうちは先生のお見本のようにできないのが当たり前です。 大切なのは、うまくいかないことがあっても結果を結果として受け入れ、自分自身の落ち着きや心の軸をブラさないことです。
落ち着きが崩れたときは呼吸が乱れます。

冒頭で、専門分野の人たちや似た考え方の人たちばかりが偏るとどうしても角度を変えて物を見ることが難しくなりがちであるということを書きました。
山に登る道は一つのルートだけではありません。どんな登り方でも、向かうべき場所へ心が明確に向いていれば、いつかはきっと頂上の景色が見えるはずです。
ただ、まずは慣れた道を一つ獲得することがやりやすいでしょう。それができれば別のルートも開発していく。きちんとした基礎の理解があってこその応用ですから、焦りは無益です。今の自分を常に確認しながら、コツコツと続けていきましょうね。
私も、まだまだその途上にあります。お楽しみはこれから、です。自分を知ることができたとき、真実の自由を知るのでしょう。 image4 最後に、今回のワークショップシリーズを企画、開催するにあたってたくさんの方々のお力添えを頂戴する幸運に恵まれましたこと、感謝しております。
また、第一回講座の開催日は本町スタジオのレッスンスケジュールの関係上、講座のお部屋の設営に時間が十分あるとは言えない状況だったのですが、スタジオスタッフはもちろんのこと受講生であるお客様たちが協力して椅子やマットを運んでくださったり、知らない人たち同士でも和気あいあいと受講をして下さったことに感動いたしました。
講座の事前に私のInstagramで『長丁場になるので、おやつや珈琲を持って参加していただいても大丈夫ですよ』と呼び掛けたところ、本当にチョコレートなどを用意して、防寒対策もして、ピクニックみたいにかわいらしく座っておられた私のレッスンの常連さんたちのお姿に心が和みました。感想ノートでもおやつの持参オーケーの呼びかけに対し『安心しました』と書いてくださった方がおられました。
私は珈琲とほっこりするものが無いと、とてもではありませんが日々を過ごす元気が保てませんので、みなさまにもリラックスを何よりも大切にしていただきたいと思っています。
お忙しいスケジュールの中、ご参加本当にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。
次回講座でもお会いできるとことを楽しみにしております。おやつとお茶を忘れずに。

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ワークショップシリーズ『たかめていく氣と血のめぐり~ピラティスとアーユルヴェーダができること~』残り三回講座と特別講座の詳細と日程は、ヨガビオラトリコロールのホームページよりご確認ください。
2017年10月1日 第一回 秋編 『血のめぐりと質を高めるアーユルヴェーダとピラティス』(終了しました)
2018年1月28日 特別講座 冬編 『女性力を高めるアーユルヴェーダ式食養生とピラティス』
2018年3月4日 第二回 春編 『粘膜を強化して女性力を高めていくアーユルヴェーダとピラティス 』
2018年5月20日 第三回 梅雨編 『ホルモンを安定させる冷え取りアーユルヴェーダとピラティス』
2018年 6月ごろ 特別講座 梅雨編 『女性力を高めるアーユルヴェーダ式食養生とピラティス』 ※詳細未定
2018年7月8日 第四回 夏編 『女性器のケアと向き合う アーユルヴェーダとピラティス』

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第一回講座後に、受講生のみなさまから頂いたご質問にお答えする形でフォローアップの記事を私のInstagramにて順次更新しております。
アカウント @ginger_jinjya にてご検索ください。
Instagramのアカウントをお持ちでなくてもインターネット環境があればご覧になれます。
更なるご質問も、是非またお聞かせ願えれば幸いです。

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今回の第七回コラムの中で登場したジョセフ・ピラティス氏の言葉については Pilates in the Grove
(http://www.pilatesinthegrove.com)の記事を参照、引用させて頂いた上で、私が今回のコラムの内容に鑑みて邦訳させていただきました。
原文にご興味のある方は是非ご一読ください。


profile PROFILE : Ginger(じんじゃ~)

  • アーティスト
  • マットピラティス/TYE4®指導者
  • アーユルヴェーダ セルフケアアドヴァイザー
  • 英国にて衣装デザイン/制作を学び、デザイナーとして様々な身体表現者たちと関わる中で心身の不一致を感じ、そのコントロールへの興味を深める。
    帰国後、ピラティスに出会い指導者に。アーユルヴェーダや東洋医学、薬膳の智慧を取り入れ、老若男女、プロの役者、ダンサー、武道家など幅広く指導。
    個々人自らが『感じる力』を磨くことを何よりも重要視している。
    英語でのレッスンや海外講師の通訳、人体経絡図の挿絵など、ピラティスと英語・アートをリンクさせた活動も積極的に展開している。
    近年はピラティスという分野を超えて『今、自分自身が発する呼吸(言葉)と想い、そして行動がすべて気持ちよく一致しているか』を大切に指導を展開中。
    Instagram: @ginger_jinjya