第13回「慈愛」

第13回「慈愛」
みなさまごきげんいかがですか?
ピラティス指導者のGingerです。

私がこの原稿を書いている今は見渡す限り薄紅の海、春霞にうつつを抜かす日々です。
私は暁と宵の頃の桜に格別の艶を感じますから、この時期はつい遠回りしてしまったり歩調に穏やかさが出てしまいます。ですから遅刻しないように時間を桜のために余分にとっておきます。私はこれを桜熱、と勝手に名付けています。ある種の甘美な病ですから、この時期に緩慢になりがちな私の活動速度は桜木の美麗さに免じてお許し下さいませ。しかしながらこのコラムが更新される頃にはもうその桜は跡形もなく散って、路上には名残の花弁も見当たらず、新緑が繁っていることでしょうと思い、儚く潔い自然の美にしみじみと感じ入ります。

春は旅立ちと出会いの季節でもあります。あたたかくて何をするにも心地の良い時候ですから、新生活のスタートと共にヨガやピラティスなどの習い事を始める方も多いようですね。生活のパターンを変えると新たな発見や出会い、また過去のご縁が思いも寄らぬ形で還って来たりと、おもしろいです。
五月の朝のしののめは「ふらんす」に行きたいと朔太郎先生は仰っていました。明るい日差しが「うら若草のもえいづる」如く心にたのしきことを思わせるからだと。
人間は心身が疲弊すると緑を求めます。室内にふと飾られた花一輪に心安らぐこともあります。食事も睡眠も運動も芝生の上や海辺で行うと気持ちが良いですね。『The YOGA of Herbs』というアーユルヴェーダの薬草の本によると、植物にも人体の構成要素(ダートゥ)と同じ構成要素を当てはめることができるとしています。アーユルヴェーダでは人間の身体は大宇宙と同じ五元素で出来ているとしていますし、葉緑素もヘモグロビンも似ていますよね。またこの本には『植物は瞑想する』とあり、そして土壌、つまりこの地球も瞑想しているそうです。太陽の天を駆ける動きが「オーム(OM)」のマントラの波動を作り出し、それを受けて植物たちは命を育みます。太陽のマントラの力を無くして植物には治療の力が備わらないと書かれています。そしてアーユルヴェーダのハーブを使った薬を処方する際にはあるマントラを108回唱えながら用意することで薬効を高めるのだそうです。つまり、何を用意するのかではなく、どうそれを用意するかが重要だということです。whatよりもhowということですね。
今回のコラムは、このhowの部分に焦点をあてたいと思います。新しく何かを始めるとき、何を始めるのかよりも、どうそれを始めたか、もしくはなぜ始めたのか…?
どうぞおやつを片手にお気軽にお読みいただければ幸いです。
image7 さて、自分の何かを変えたい!と思うのであれば固定化された生活パターンを変えることが効果的と言われています。時間、場所、人、変えられそうなものはありますか?人間は「慣れ」によって不注意や無関心になりがちです。動きにはある種の無駄が無くなるでしょうが、気をつけないと粗雑さが出たり、洗練とは真逆の方向へ向かってしまいます。いつもとは違うパターンを取り入れることは注意深さや観察による発見や感動をもたらしてくれます。
また私の経験上、誰かに勧められたことや自然の成り行きで始めたことよりも、自らが求めて飛び込んだ時に出逢った人たちとのご縁はとても強力で、長く深く私に影響を与えてくれています。何かを始める時、他人からの推薦はもちろん素晴らしいきっかけですが、自分から探して見つけたものや、自らが求めて積極的にその道を行くのであれば得るものもより多く、人によっては転機となることでしょう。私にとってイギリスでの生活、ピラティス、アーユルヴェーダ、呼吸法などすべてがそれに当てはまります。自ら求めた道で出逢った人とのご縁は信頼や尊敬を含み、時と場所を超越します。
人は自分が持っていないものは自分にも他人に与えられませんから、背伸びして何かを成そうとしても身の丈に見合った結果で満足できなければ心と身体、魂がバラバラになって辛いでしょう。この世界では必要な課題は最適な時に与えられ、必要でないものは与えられないのだと私は実感しています。高い理想や目標を持つことは大切ですが、結果に執着したり焦ったり、また手段に依存せずに日々『今の課題』を明確にし、自分の為すべきことに全力で取り組めば必ず道は拓けていきます。

何かを自分のために始めるときは、現状よりも『良くしたい』という想いがあると思います。例え特定の誰かや広く世のため他人のためにであっても、相手が喜んでくれれば結果として自分も『良い未来』を共有できることは事実です。
ピラティスさんは、もともと身体の弱い子供でした。くる病という骨の変形する病気や喘息、リウマチ熱を患っていたと言われています。彼が動物や子供の自然な動きから学び、彼自身の身体を整えた方法が、後に多くの人に健康をもたらしましたが、現在私たちが学んでいる彼のメソッドには、『より良い未来』を信じてそれに邁進することを妥協しなかった強い意思が生きています。

ピラティスムーヴメントによって骨格を整える=内臓の位置を整え、正しく機能させると新陳代謝が向上します。老廃物を生成し、排泄する力は健やかな心身の構築に欠かせません。
呼吸を止めないということは、生きているということですが、大切なのは五感を使うことです。
ただ呼吸をし、眠り、食べることで、心身を健やかに育てる乳幼児。3歳くらいまでに正しく愛情を受けることや、五感を使った様々な体験、とくに自然と触れ合うことで脳の発達(80%)と精神的発達、また自己肯定感も大きく影響を受けるのだといいます。David Deutchmanさんという方が有名ですが、未熟児などで産まれてなかなか母親の腕に抱かれたり家族に会えない赤ちゃんを抱っこするというボランティアをかれこれ12年ほど続けているそうです。定年退職後に自分にできることを考え、自らボランティアを希望して、アトランタの小児専門院で抱っこの仕事を始めたのだそうです。
ピラティスならば呼吸、アーユルヴェーダならばやはり呼吸と、オイルマッサージ、瞑想などで見えない部分に愛情を向けると目に見える皮膚には好影響がどんどん出てきます。皮膚の厚さは2mm、最上層の角質層は0.2mm。これはいわゆる垢で、毎日剥がれています。違和感があるかもしれませんが皮膚は人体最大の臓器です。総重量は実に約10kg、表面積は1.6㎡で肝臓よりも大きいのです。お米10kgとイメージしてはいかがでしょうか?圧倒的な存在感と、いかに自分が皮膚の『見える部分』しか意識できていないかに気づきます。10kgのお米を一粒ずつ黒い皿に乗せて、欠けがなく色形の整ったお米ばかりを選り分けるとしたら一体何Kgくらいになるのでしょうか?自分自身の皮膚をくまなく触って、柔らかさや温度やきめ細かさに納得できる部分は何㎡になるのでしょうね?柔らかくて、温かくて、赤ちゃんのような肌はよく手をかけてもらっている証拠です。心を向けてマッサージをしたり保湿をしたり、できることから始めてみましょう。皮膚が硬いのであればその下層にある筋膜や筋肉、骨もやはり動きづらいはずですからね。心を使って皮膚に触れることはとても大きな可能性を秘めた『相手も自分も元気にする』行為だと言えます。また、実際に触れることができない場合でも皮膚の上に手をかざして近づけていくと、ふわりと感じるものがあります。それをやさしく撫でてあげることでも心は伝わります。
image5 アーユルヴェーダは慈愛(Anukrosha )から生まれたと言います。
神話は伝えます。太古の時代、自然の摂理に調和して分かち合う心を持って暮らしていた人々の寿命は400歳余りあったのだと。しかしいつからか執着心を持つようになり、寿命は短くなり始めたのだそうです。執着心が病を生み、人々は苦しみ始めました。それを見かねた聖者たちがヒマラヤの中腹に集い瞑想をし、病の人々を救う方法を探しました。そして聖者たちの代表バラドバージャがブラフマーという神様の元へ治療法を習いに赴いたことがアーユルヴェーダの始まりだと言います。聖者たちの慈愛の心がなければアーユルヴェーダは今日まで伝えられることはなかったでしょう。
誰かを元気にしたい、少しでも楽になって欲しいと思う気持ちは尊いものです。純粋に見返りを求めずに湧き上がる無償の奉仕が結局はその人自身をも幸福にします。
私は空の色や月、雲の流れや光の神秘に感じるものがあると、それを伝えたくなる人たちがいます。
『雪の美しいのを見るにつけ、月の美しいのを見るにつけ、つまり四季折り折りの美に、自分が触れ目覚める時、美にめぐりあふ幸ひを得た時には、親しい友が切に思はれ、このよろこびを共にしたいと願ふ、つまり、美の感動が人なつかしい思ひやりを強く誘ひ出すのです。この「友」は、広く「人間」ともとれませう。』これは川端康成さんの言葉ですが、 共感とは五感を使うことで深まるように思います。それにしても感動を分かち合いたくなる、そんな存在があることはなんて幸せなことでしょうか。
image3 最後に、何かを始めるときに良い方法や師に出逢うことはその道を深めて行けるかどうかの鍵となります。
そのレベルがどうこうではなく、今の自分にとって合っているかどうか。これはこのコラムの第一回目にも書きましたが、自分の成長段階に合わせて方法や師は変わります。
『人能く道を弘む。道、人を弘むるに非ず。』とは孔子の言葉ですが、良い世界というものが人を良くするのでなはなく、人が世界を良くしていくのだ、と。人や物や方法が自分を変えてくれるのではなく、原動力は自分自身。手段は手段でしかなく、それを自分がどう使うかによってより理想の自分に還っていくのです。なる、のではなく還る、と申しますのはつまり生まれた時の無邪気な状態へ戻るということです。素直にあるがままであることは難しいと思われるでしょうが、心の持ち方次第でしょう。無理だと思えばそれが自分の限界ですし、できると思えばどこまでも無限に可能性は広がっていきます。何をするかよりもどういう気持ちでするのかを是非大切にされてみてはいかがでしょうか?インドでは新しいことを始めるときにガネーシャさんにお祈りを捧げます。奈良の生駒には宝山寺がありますね。聖天さんとはガネーシャさんのことです。初夏の小旅行にいかがでしょうか?
ではまた次回。



ワークショップ シリーズ
全4回 + 特別講座 (単一講座受講化。セット割引有り)
1710-1807_ginger_o 私がピラティスやアーユルヴェーダの指導を行う中で出会った様々な年代の女性たち。
彼女たちの願いを集約すると、やはり健康で若々しくあり続けること。
女性は毎月の月経を通して自らの血と氣のめぐりの状態を知ることができます。
さらに妊娠、出産を通じて血のコンディションは変わり、養生の方法も変わります。
今回のワークショップでは私の持つピラティスの知識に加え、アーユルヴェーダや東洋医学、薬膳の智慧をお借りして女性の血と氣のめぐりの養生法を見直します。
日常生活に取り入れやすい季節ごとのセルフケアや食養生など、実践できることを中心にお伝えします。
シリーズでお届け致しますが、もちろんお好きな受講スタイルで大丈夫です。
なお男性のお客様、ご夫婦でのご参加も大歓迎です。

第一回 秋編日  程2017年10月1日(日)
時  間14:30~17:30(3時間)
本町スタジオ (終了しました)
血のめぐりと質を高める アーユルヴェーダとピラティス
特別講座 冬編日  程2018年1月28日(日)
時  間①10:30~13:30 ②15:30~18:30
大阪 刻屋 (終了しました)
特別講座 冬編 『女性力を高めるアーユルヴェーダ式食養生とピラティス』AyamiとGingerによる ピラティス&アーユルヴェーダ食養生
第二回 春編日  程2018年3月4日(日)
時  間14:30~17:30(3時間)
本町スタジオ(終了しました)
粘膜を強化して女性力を高めていくアーユルヴェーダとピラティス
ミニ講座 立夏編日  程2018年5月5日(土)
時  間13:45~15:15(90分)
神戸三宮スタジオ (受付中)
睡眠の力を知る アーユルヴェーダとピラティス
第三回 梅雨編日  程2018年5月20日(日)
時  間14:30~17:30(3時間)
本町スタジオ (受付中)
ホルモンを安定させる冷え取りアーユルヴェーダとピラティス
特別講座 梅雨編日  程2018年6月3日(日)
時  間①10:30~13:30 ②15:30~18:30
大阪 刻屋(受付中 /第三回講座とのセット割引あり)
特別講座 梅雨編 『女性力を高めるアーユルヴェーダ式食養生とピラティス』
第四回 夏編日  程2018年7月8日(日)
時  間14:30~17:30(3時間)
本町スタジオ (受付中)
女性器のケアと向き合う アーユルヴェーダとピラティス


profile
PROFILE : Ginger(じんじゃ~)

  • フリーランス アーティスト
  • FTPマットピラティス 指導者
  • からだスキャン セルフマッサージ 指導者
  • Physical Mind Institute 認定 Tye4® Mat/Standing 指導者
  • Body Code System認定 Master Stretch® 指導者
  • アーユルヴェーダ セルフケアアドヴァイザー
  • 漢方・薬膳検定 保有
  • 英国にて衣装デザインと制作を学び、デザイナーとして様々な身体表現者たちと関わる。また6年近くに及ぶ異国生活で心身の不一致を感じ、そのコントロールへの興味を深める。
    帰国後、ピラティスに出会い指導者としてのトレーニングを受ける。
    アーユルヴェーダや東洋医学、薬膳の考え方を取り入れ、グループ・個人レッスン共に男女問わず幅広い年齢層を指導。 
    個々人自らが『感じる力』を磨くことを何よりも重要視している。
    英語でのレッスンや海外講師の通訳、人体経絡図の挿絵など、ピラティスと英語・アートをリンクさせた活動も積極的に展開している。
    近年はピラティスという分野を超えて、自然の中で呼吸や五感のワークを行うことも始めている。
    Instagram: @ginger_jinjya
    HP: http://junkoginger.blogspot.jp