第8回「養生」
みなさまごきげんいかがですか?
ピラティス指導者のGingerです。
霜月になりましたね。
この月は七五三や新嘗祭、酉の市など、いのちに感謝をする行事がたくさんあります。自然の中で生かされている私たちはこういった自然とのつながりを大切にできる心を養いたいですね。
立冬を過ぎると冬至に向かって陰の氣は高まり始めます。陰の氣とはあたたかい陽の氣のエネルギーに対してつめたい氣のことを指します。
寒さが深まる季節ですから、身体を冷やし過ぎないように太陽のあたたかさを浴びて秋の実りを楽しみ、めぐる季節に豊穣を祈りましょう。身体を十分に休め、美しいものを愛でて心豊かに過ごします。
コラム第八回目は冬の養生とピラティスについてです。中医学や薬膳、アーユルヴェーダの視点も大いに取り入れて書き進めてまいります。
どうぞいつも通り、お茶とおやつをご用意の上でのんびりと読んでいただければ幸いです。
*
中医学において、寒さが本格的に増してくる前から養生しておきたいのが腎です。
中医学では体質を五つに分類する五臓六腑理論を用います。ここで言う臓腑とは現代医学で言うところの内臓そのものではなく身体を機能させる氣、血、水、精の四つの基本物質から生まれるエネルギーを蓄えて活用するものと考えます。
※氣血水精をごく簡単に説明します。さらに詳しく知りたい方は是非専門書をご参照下さいね。
氣 : 全身をめぐり、肉体を動かすエネルギー。生理機能や新陳代謝のこと。
血 : 血液とその働きのこと。氣と津液でできていると考える。
水(津液): 血液以外の体液のこと。身体の内外を潤す。
精 : いのちそのもののエネルギー。生殖エネルギーやホルモンなども精。
さて、五臓六腑の五臓は肝心脾肺腎ですが、その一つである腎は精、氣、血を蓄えます。後述しますが六腑の一つの膀胱は腎の対となります。
五臓六腑理論をよりわかりやすくするため、それぞれの性質や働き、対応する感覚器官や季節、色、音、味などを示した一覧表が五行色体表です。おもしろいのでご興味のある方は調べてみると良いでしょう。
さて、五行色体表で腎の項目を見ると五根(感覚器)は『耳』、五志(感情)は『恐』、五色は『黒』、五味は『鹹』、五季は『冬』とあります。
まず五根の『耳』ですが、左右二つある腎臓の形は耳とそっくりです。耳には全身の機能を調整するツボがたくさんあり、耳を暖かく保つことは元気の鍵です。
アーユルヴェーダでも冬は耳の冷えに気をつけます。暑い国のイメージのインドですが、ヒマラヤのふもとでは雪が積もるほど寒くなるのです。ヒマ=雪 の ラヤ=宿 なんだそうです。お煎餅の名前みたいですが…。アーユルヴェーダのドクターに、耳の穴に綿を詰めて栓をしたインド人の写真を見せていただいた時は『なるほど』と感心しました。耳そのものをあたためるというよりも耳の穴から風の邪気が入らないようにしているようです。面白いので家族にその話をしたところ、父が実践して『耳当てをするよりちゃんと外の音も聞こえるし、家の中で耳当てをしていると違和感があるんだけど、これは良いね。』と喜んでいました。
父は本が好きで、時間が許す限り椅子に座って本を読んでいるのですが、冬は何時間もそうしてじっとしていると身体が冷えて困るとこぼしていました。そこで母が魚屋さんから大きな発泡スチロールの箱をもらってきて、ブランケットを敷き、その上に湯たんぽを入れました。火傷をしないように厚手の靴下を履いた足をのせ、膝にはブランケットを掛けて使います。ブランケットを腰の奥まで巻きつけておくと更にあたたかいのです。これはすっかり父のお気に入りとなり、冬になると必ず食卓の下に湯たんぽの箱が登場するようになりました。冷え込む朝などは、父と母が仲良く湯たんぽの箱に足を差し入れて朝食を摂っている姿をよく見かます。後述しますが足の冷えは冬の養生の要でもあります。
炬燵だとどうしても胡座の姿勢になりますから仙骨が立たないと辛く、背が高い父には炬燵の高さを調整してもやはり長時間座り続けると不良姿勢になるため、食卓の椅子に座っている方が腰が楽なのです。湯たんぽの箱が掘り炬燵のような状態をつくっていて快適というわけです。何よりもエコロジカルです。
さて『耳の穴に綿』の話をした日以来、耳に白い綿をほわりと入れて無心に読書をする父をよく見かけるようになりました。もちろん足元には湯たんぽの箱。口元が緩む光景です。熱心に読書をする父の姿を見ていると、つい珈琲の一杯でも淹れてあげたくなってしまいます。しばらく実家へ戻っていませんが、これを書いていたらまた近いうちに顔を見せに行きたくなりました。
『寒さ』を嫌う人は多いですが、寒いからこそ人を思う気持ちがいっそう嬉しい季節でもありますね。
五志の『恐』ですが、これは腎を弱らせる感情のことと考えていただければ良いですね。まだ起きてもいない、想像上の未来を怖がっていると腎の機能は弱ると考えられています。
また五臓の働きは、身体の中の陰陽バランスが不均衡になることでも弱ります。腎の力が衰えると身体をあたためることも熱をさますことも難しくなり、そのために水分や老廃物の代謝が悪くなります。身体に熱が籠り、末端は冷えて底力が出ませんから、身体の調整機能の質が下がってしまいます。
腎の機能が弱った時のサインは常に感じる寒さ。手足の冷えやむくみ、無力感や精力の減退、女性であれば不妊。消化不良や夜明け前の下痢などです。これらは陽の氣が足りないか、弱く冷えてしまっていることが原因と考えられています。逆に陽の氣ばかり強くなって陰の氣が足りないもしくは弱くなっていると腎が火照ってしまいます。暑い夏に身体の熱を冷まそうとし過ぎても同じことが起こります。目眩や耳鳴り、手足や顔の火照り、喉の渇きを感じます。更年期障害を強く感じる人もいます。寝汗や不眠、動悸、長く続く疲労があり、足腰のだるさや、夕刻から熱っぽくなったりします。
いのちのエネルギーと深く関わる腎の養生は補腎と呼ばれ、大切なことです。また『肝心同源』と言い、腎の蓄える精が肝に活力を与え、肝の血が腎に精を蓄えさせます。ストレスで肝の血が不足すると目が潤い不足になり熱っぽくなります。腎も肝がストレスを受けていると精を蓄えることができません。そこで肝と腎の両方の熱を冷まして潤すことが必要となります。腎が水を司るため、腎に潤いがないと燃え盛る心の火を消せずに気力で頑張りすぎて疲労が続いてしまったり、消化吸収を司る脾をあたためられないため余分な水分を取り除けず、その水分が滞ることで更に冷えを招き、腎に精を補充できません。肺の養生により腎と肺のお互いを潤していのちのエネルギーを高めましょう。
ピラティスはおだやかな呼吸のリズムの中で手脚や背骨を動かすことで肺を元気にし、心のリズムを整えます。腰の奥のやわらかさを取り戻す骨盤の動きが腰やお尻周辺に柔軟性を与えるので姿勢保持もしやすくなり、腎の居場所も快適になります。脚や足首を動かして脛やふくらはぎ、腿に流れる肝腎脾の経絡を刺激しますから、下肢のむくみも解消しやすくなります。とは言えども、どの動きも笑ってしまうくらい地味です。そして地味な動きほどキツイです。でも、やっぱり気持ちが良い。身体と遊ぶことってほんとうにおもしろいです。
さて、多くの方が気になっている薬膳の部分ですが、腎の五色は『黒』、五味は『鹹』とあります。
黒い色の食べ物や鹹味(塩味)は腎の養生に良いとされています。黒米、黒豆、海藻類、黒胡麻、牛蒡、きのこ類、ココアなどがあげられますがどれも栄養価の高い食養ですね。
黒い食品はアントシアニンという活性酸素を取り除く抗酸化作用が非常に高いと言われています。細胞の活力を保つ要素の一つには細胞を酸化をさせないことです。また、アントシアニンは血糖値の安定にも効果を発揮します。
鹹味にはしこりや腫瘍など、身体にできたかたい塊や腫れ物をほぐす働きがあります。昆布や若芽、ヒジキは身近に取り入れられる海藻類で、ミネラルや食物繊維も豊富です。島国である日本は海の幸に恵まれている豊かな国ですから、是非これらを食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか?黒糖や黒酢といった調味料やプルーンやレーズンなどの果物も黒い食養ですね。
私は仕事の合間にたくさん胃に食べ物を入れるとリラックスして眠くなり仕事の質が落ちるので、手軽に食べられるおやつを携帯しています。煎り黒豆やカカオニブ、黒糖、カカオ含有量が高く乳化剤を使用していないチョコレートなどを小さな密閉容器に入れています。即戦力の糖分や脂質を補給したいのでそれらが用意できないときは餡子をいただきます。白砂糖は仕方がないとして、添加物の入っていない羊羹や最中をいただきます。黒ではありませんが濃い赤色の小豆によく助けていただいております。生の果物もいただきます。もともと果糖がたっぷりの果物を干して更に糖度をあげたドライフルーツは生の果物よりも高カロリーですから、ケーキのような嗜好品と考えています。困ったことに市販のドライフルーツはきれいな色を出すために保存料や着色料、長期保存のための白砂糖がたくさん使われていることが多いため購入しません。市販のグラノーラや焼き菓子などにもよく入っていますが私は避けます。砂糖が悪ではありませんが、多糖類ではない白砂糖は血糖値を上昇させやすく依存性もあります。その性質を上手く活用すると良いのですが、外食や市販の食料品などで知らないうちに過剰に摂取していることもあるので、普段から身体の冷えを強く感じる人は原材料を意識してみると良いと思います。
アーユルヴェーダでは冬の食養に甘味、酸味、塩味を勧めます。甘味は穀類、牛乳、黒糖。酸味は柑橘類。塩味は海の塩。旬の栗や豆、柚子や蜜柑を楽しみ、良質の味噌やお醤油、お漬物、海藻をいただきましょう。 冬はお餅の入ったおぜんざい、お正月のおせち料理には黒豆や栗きんとん、柚子、昆布巻きなどが入りますからバランスが良いですね。
牛乳は食事の一つと考えて咀嚼しながらいただくと良いです。牛乳に甘草を煮込んだものは精力をつけてくれるお薬にもなります。生殖力は生命力です。腎の蓄える精が衰えないように養生することはいのちそのものの活力のために大切なことです。
さて、最後に督脈について書きたいと思います。
背中には督脈と呼ばれる経絡があります。経絡は氣血がめぐる通り道です。督脈は長強という尾骨の先端にあるツボより始まり、会陰に出て、腰愈、命門、身柱などのツボを通りながら脊椎を上がり、首の付け根にある大椎から頭のてっぺんの百会を通り、額の神庭から上唇に降りてきます。
督脈の滞りは自律神経の乱れを招くと言われています。西洋医学的に見ても脊椎には脳からの神経伝達物質が通り、そこから全身へ指令を出すため、背骨を整えることは大切なことです。
ピラティスムーヴメントには督脈へのアプローチがたくさんあります。椎骨の一つ一つに意識を向け、エロンゲーション(引き伸ばし)の意識により椎間板をやわらかく広げ、更にアーティキュレーション(分節作業)により背骨全体を蛇や柳がしなるように滑らかに動かしていく。
背骨を引き伸ばし、曲げ、更に伸ばし、ひねり、背骨本来の持つしなやかさを取り戻していきます。
そして督脈の流れの下には二本の脚がありますから、足指や土踏まずをケアして足底を自在に使うことで踵から長強へ氣の流れをつくることもできます。
内臓は臓腑(満ちた容れ物と、空間を持つ容れ物)のペアで考えることは前述致しました。六腑の腑は、臓とは異なり空間のある構成で精・気・血を動かす働きをします。今回取り上げている『腎 / 膀胱』の腎は精・氣・血で満ちた臓であり、膀胱は老廃部としての尿が貯まり、排泄する腑であるということです。
膀胱の経絡は督脈の通り道の周辺に平行して走っています。また、腎の経絡は足裏から脚の内側と裏を通ります。ピラティスで足底の使い方を良くし、脚から骨盤を支え、背中や背骨全体をやわらかく使うことは腎 / 膀胱の元気づけにもなりますね。
私はピラティスやTYE4®(タイフォー)の指導の際に足底や脚の関節の動きを大切にしています。怪我が少なく疲れにくい身体を支えるのはやはり足腰の鍛錬なのです。
私がこれまで関わってきたお客様たちを例に見ましても、背骨の動きの硬さは実年齢よりも確実にその人の細胞や身体構成要素、身体組織の鮮度を物語っているように思います。これは関節が柔らかいとか硬いということではなく、皮膚自体のみずみずしさや瞳の輝きなどにみることができます。そしてそういった細胞自体の硬さは思考の頑なさや意思の曖昧さ、甘えなどにも現れます。心模様が身体に滲み出る、といったところでしょうか?興味深いです。
寒さの増す季節。
どうぞ足の裏からあたたかく、湯たんぽやお白湯、ピラティスなどを活用して寒さを楽しみましょう。
ではまた次回。
PROFILE : Ginger(じんじゃ~)アーティスト
マットピラティス/TYE4®指導者
アーユルヴェーダ セルフケアアドヴァイザー
英国にて衣装デザイン/制作を学び、デザイナーとして様々な身体表現者たちと関わる中で心身の不一致を感じ、そのコントロールへの興味を深める。
帰国後、ピラティスに出会い指導者に。アーユルヴェーダや東洋医学、薬膳の智慧を取り入れ、老若男女、プロの役者、ダンサー、武道家など幅広く指導。
個々人自らが『感じる力』を磨くことを何よりも重要視している。
英語でのレッスンや海外講師の通訳、人体経絡図の挿絵など、ピラティスと英語・アートをリンクさせた活動も積極的に展開している。
近年はピラティスという分野を超えて『今、自分自身が発する呼吸(言葉)と想い、そして行動がすべて気持ちよく一致しているか』を大切に指導を展開中。
Instagram: @ginger_jinjya
ピラティス指導者のGingerです。
霜月になりましたね。
この月は七五三や新嘗祭、酉の市など、いのちに感謝をする行事がたくさんあります。自然の中で生かされている私たちはこういった自然とのつながりを大切にできる心を養いたいですね。
立冬を過ぎると冬至に向かって陰の氣は高まり始めます。陰の氣とはあたたかい陽の氣のエネルギーに対してつめたい氣のことを指します。
寒さが深まる季節ですから、身体を冷やし過ぎないように太陽のあたたかさを浴びて秋の実りを楽しみ、めぐる季節に豊穣を祈りましょう。身体を十分に休め、美しいものを愛でて心豊かに過ごします。
コラム第八回目は冬の養生とピラティスについてです。中医学や薬膳、アーユルヴェーダの視点も大いに取り入れて書き進めてまいります。
どうぞいつも通り、お茶とおやつをご用意の上でのんびりと読んでいただければ幸いです。
*
中医学において、寒さが本格的に増してくる前から養生しておきたいのが腎です。
中医学では体質を五つに分類する五臓六腑理論を用います。ここで言う臓腑とは現代医学で言うところの内臓そのものではなく身体を機能させる氣、血、水、精の四つの基本物質から生まれるエネルギーを蓄えて活用するものと考えます。
※氣血水精をごく簡単に説明します。さらに詳しく知りたい方は是非専門書をご参照下さいね。
氣 : 全身をめぐり、肉体を動かすエネルギー。生理機能や新陳代謝のこと。
血 : 血液とその働きのこと。氣と津液でできていると考える。
水(津液): 血液以外の体液のこと。身体の内外を潤す。
精 : いのちそのもののエネルギー。生殖エネルギーやホルモンなども精。
さて、五臓六腑の五臓は肝心脾肺腎ですが、その一つである腎は精、氣、血を蓄えます。後述しますが六腑の一つの膀胱は腎の対となります。
五臓六腑理論をよりわかりやすくするため、それぞれの性質や働き、対応する感覚器官や季節、色、音、味などを示した一覧表が五行色体表です。おもしろいのでご興味のある方は調べてみると良いでしょう。
さて、五行色体表で腎の項目を見ると五根(感覚器)は『耳』、五志(感情)は『恐』、五色は『黒』、五味は『鹹』、五季は『冬』とあります。
まず五根の『耳』ですが、左右二つある腎臓の形は耳とそっくりです。耳には全身の機能を調整するツボがたくさんあり、耳を暖かく保つことは元気の鍵です。
アーユルヴェーダでも冬は耳の冷えに気をつけます。暑い国のイメージのインドですが、ヒマラヤのふもとでは雪が積もるほど寒くなるのです。ヒマ=雪 の ラヤ=宿 なんだそうです。お煎餅の名前みたいですが…。アーユルヴェーダのドクターに、耳の穴に綿を詰めて栓をしたインド人の写真を見せていただいた時は『なるほど』と感心しました。耳そのものをあたためるというよりも耳の穴から風の邪気が入らないようにしているようです。面白いので家族にその話をしたところ、父が実践して『耳当てをするよりちゃんと外の音も聞こえるし、家の中で耳当てをしていると違和感があるんだけど、これは良いね。』と喜んでいました。
父は本が好きで、時間が許す限り椅子に座って本を読んでいるのですが、冬は何時間もそうしてじっとしていると身体が冷えて困るとこぼしていました。そこで母が魚屋さんから大きな発泡スチロールの箱をもらってきて、ブランケットを敷き、その上に湯たんぽを入れました。火傷をしないように厚手の靴下を履いた足をのせ、膝にはブランケットを掛けて使います。ブランケットを腰の奥まで巻きつけておくと更にあたたかいのです。これはすっかり父のお気に入りとなり、冬になると必ず食卓の下に湯たんぽの箱が登場するようになりました。冷え込む朝などは、父と母が仲良く湯たんぽの箱に足を差し入れて朝食を摂っている姿をよく見かます。後述しますが足の冷えは冬の養生の要でもあります。
炬燵だとどうしても胡座の姿勢になりますから仙骨が立たないと辛く、背が高い父には炬燵の高さを調整してもやはり長時間座り続けると不良姿勢になるため、食卓の椅子に座っている方が腰が楽なのです。湯たんぽの箱が掘り炬燵のような状態をつくっていて快適というわけです。何よりもエコロジカルです。
さて『耳の穴に綿』の話をした日以来、耳に白い綿をほわりと入れて無心に読書をする父をよく見かけるようになりました。もちろん足元には湯たんぽの箱。口元が緩む光景です。熱心に読書をする父の姿を見ていると、つい珈琲の一杯でも淹れてあげたくなってしまいます。しばらく実家へ戻っていませんが、これを書いていたらまた近いうちに顔を見せに行きたくなりました。
『寒さ』を嫌う人は多いですが、寒いからこそ人を思う気持ちがいっそう嬉しい季節でもありますね。
五志の『恐』ですが、これは腎を弱らせる感情のことと考えていただければ良いですね。まだ起きてもいない、想像上の未来を怖がっていると腎の機能は弱ると考えられています。
また五臓の働きは、身体の中の陰陽バランスが不均衡になることでも弱ります。腎の力が衰えると身体をあたためることも熱をさますことも難しくなり、そのために水分や老廃物の代謝が悪くなります。身体に熱が籠り、末端は冷えて底力が出ませんから、身体の調整機能の質が下がってしまいます。
腎の機能が弱った時のサインは常に感じる寒さ。手足の冷えやむくみ、無力感や精力の減退、女性であれば不妊。消化不良や夜明け前の下痢などです。これらは陽の氣が足りないか、弱く冷えてしまっていることが原因と考えられています。逆に陽の氣ばかり強くなって陰の氣が足りないもしくは弱くなっていると腎が火照ってしまいます。暑い夏に身体の熱を冷まそうとし過ぎても同じことが起こります。目眩や耳鳴り、手足や顔の火照り、喉の渇きを感じます。更年期障害を強く感じる人もいます。寝汗や不眠、動悸、長く続く疲労があり、足腰のだるさや、夕刻から熱っぽくなったりします。
いのちのエネルギーと深く関わる腎の養生は補腎と呼ばれ、大切なことです。また『肝心同源』と言い、腎の蓄える精が肝に活力を与え、肝の血が腎に精を蓄えさせます。ストレスで肝の血が不足すると目が潤い不足になり熱っぽくなります。腎も肝がストレスを受けていると精を蓄えることができません。そこで肝と腎の両方の熱を冷まして潤すことが必要となります。腎が水を司るため、腎に潤いがないと燃え盛る心の火を消せずに気力で頑張りすぎて疲労が続いてしまったり、消化吸収を司る脾をあたためられないため余分な水分を取り除けず、その水分が滞ることで更に冷えを招き、腎に精を補充できません。肺の養生により腎と肺のお互いを潤していのちのエネルギーを高めましょう。
ピラティスはおだやかな呼吸のリズムの中で手脚や背骨を動かすことで肺を元気にし、心のリズムを整えます。腰の奥のやわらかさを取り戻す骨盤の動きが腰やお尻周辺に柔軟性を与えるので姿勢保持もしやすくなり、腎の居場所も快適になります。脚や足首を動かして脛やふくらはぎ、腿に流れる肝腎脾の経絡を刺激しますから、下肢のむくみも解消しやすくなります。とは言えども、どの動きも笑ってしまうくらい地味です。そして地味な動きほどキツイです。でも、やっぱり気持ちが良い。身体と遊ぶことってほんとうにおもしろいです。
さて、多くの方が気になっている薬膳の部分ですが、腎の五色は『黒』、五味は『鹹』とあります。
黒い色の食べ物や鹹味(塩味)は腎の養生に良いとされています。黒米、黒豆、海藻類、黒胡麻、牛蒡、きのこ類、ココアなどがあげられますがどれも栄養価の高い食養ですね。
黒い食品はアントシアニンという活性酸素を取り除く抗酸化作用が非常に高いと言われています。細胞の活力を保つ要素の一つには細胞を酸化をさせないことです。また、アントシアニンは血糖値の安定にも効果を発揮します。
鹹味にはしこりや腫瘍など、身体にできたかたい塊や腫れ物をほぐす働きがあります。昆布や若芽、ヒジキは身近に取り入れられる海藻類で、ミネラルや食物繊維も豊富です。島国である日本は海の幸に恵まれている豊かな国ですから、是非これらを食卓に取り入れてみてはいかがでしょうか?黒糖や黒酢といった調味料やプルーンやレーズンなどの果物も黒い食養ですね。
私は仕事の合間にたくさん胃に食べ物を入れるとリラックスして眠くなり仕事の質が落ちるので、手軽に食べられるおやつを携帯しています。煎り黒豆やカカオニブ、黒糖、カカオ含有量が高く乳化剤を使用していないチョコレートなどを小さな密閉容器に入れています。即戦力の糖分や脂質を補給したいのでそれらが用意できないときは餡子をいただきます。白砂糖は仕方がないとして、添加物の入っていない羊羹や最中をいただきます。黒ではありませんが濃い赤色の小豆によく助けていただいております。生の果物もいただきます。もともと果糖がたっぷりの果物を干して更に糖度をあげたドライフルーツは生の果物よりも高カロリーですから、ケーキのような嗜好品と考えています。困ったことに市販のドライフルーツはきれいな色を出すために保存料や着色料、長期保存のための白砂糖がたくさん使われていることが多いため購入しません。市販のグラノーラや焼き菓子などにもよく入っていますが私は避けます。砂糖が悪ではありませんが、多糖類ではない白砂糖は血糖値を上昇させやすく依存性もあります。その性質を上手く活用すると良いのですが、外食や市販の食料品などで知らないうちに過剰に摂取していることもあるので、普段から身体の冷えを強く感じる人は原材料を意識してみると良いと思います。
アーユルヴェーダでは冬の食養に甘味、酸味、塩味を勧めます。甘味は穀類、牛乳、黒糖。酸味は柑橘類。塩味は海の塩。旬の栗や豆、柚子や蜜柑を楽しみ、良質の味噌やお醤油、お漬物、海藻をいただきましょう。 冬はお餅の入ったおぜんざい、お正月のおせち料理には黒豆や栗きんとん、柚子、昆布巻きなどが入りますからバランスが良いですね。
牛乳は食事の一つと考えて咀嚼しながらいただくと良いです。牛乳に甘草を煮込んだものは精力をつけてくれるお薬にもなります。生殖力は生命力です。腎の蓄える精が衰えないように養生することはいのちそのものの活力のために大切なことです。
さて、最後に督脈について書きたいと思います。
背中には督脈と呼ばれる経絡があります。経絡は氣血がめぐる通り道です。督脈は長強という尾骨の先端にあるツボより始まり、会陰に出て、腰愈、命門、身柱などのツボを通りながら脊椎を上がり、首の付け根にある大椎から頭のてっぺんの百会を通り、額の神庭から上唇に降りてきます。
督脈の滞りは自律神経の乱れを招くと言われています。西洋医学的に見ても脊椎には脳からの神経伝達物質が通り、そこから全身へ指令を出すため、背骨を整えることは大切なことです。
ピラティスムーヴメントには督脈へのアプローチがたくさんあります。椎骨の一つ一つに意識を向け、エロンゲーション(引き伸ばし)の意識により椎間板をやわらかく広げ、更にアーティキュレーション(分節作業)により背骨全体を蛇や柳がしなるように滑らかに動かしていく。
背骨を引き伸ばし、曲げ、更に伸ばし、ひねり、背骨本来の持つしなやかさを取り戻していきます。
そして督脈の流れの下には二本の脚がありますから、足指や土踏まずをケアして足底を自在に使うことで踵から長強へ氣の流れをつくることもできます。
内臓は臓腑(満ちた容れ物と、空間を持つ容れ物)のペアで考えることは前述致しました。六腑の腑は、臓とは異なり空間のある構成で精・気・血を動かす働きをします。今回取り上げている『腎 / 膀胱』の腎は精・氣・血で満ちた臓であり、膀胱は老廃部としての尿が貯まり、排泄する腑であるということです。
膀胱の経絡は督脈の通り道の周辺に平行して走っています。また、腎の経絡は足裏から脚の内側と裏を通ります。ピラティスで足底の使い方を良くし、脚から骨盤を支え、背中や背骨全体をやわらかく使うことは腎 / 膀胱の元気づけにもなりますね。
私はピラティスやTYE4®(タイフォー)の指導の際に足底や脚の関節の動きを大切にしています。怪我が少なく疲れにくい身体を支えるのはやはり足腰の鍛錬なのです。
私がこれまで関わってきたお客様たちを例に見ましても、背骨の動きの硬さは実年齢よりも確実にその人の細胞や身体構成要素、身体組織の鮮度を物語っているように思います。これは関節が柔らかいとか硬いということではなく、皮膚自体のみずみずしさや瞳の輝きなどにみることができます。そしてそういった細胞自体の硬さは思考の頑なさや意思の曖昧さ、甘えなどにも現れます。心模様が身体に滲み出る、といったところでしょうか?興味深いです。
寒さの増す季節。
どうぞ足の裏からあたたかく、湯たんぽやお白湯、ピラティスなどを活用して寒さを楽しみましょう。
ではまた次回。
PROFILE : Ginger(じんじゃ~)